サムエルコッキング苑にある温室遺構がリニューアルされ、今まで決められた開放日だけの公開だっだ地下通路部分が、開園日であれば自由に見学できるようになったので訪れてみました。
さっそくレンガ造りの地下通路へ入っていきます。
地下通路に使われているレンガは一般的な硬質タイプの赤レンガのようですね。そして天井部分のレンガは、長手積み方式でアーチ状に組み上げられています。それに対して壁面のレンガは、長手と小口を交互に積んでいくフランス積み方式が採用されていました。
地下通路の中ほどにあたる天井部分には、太陽光を取り込む明かり取り口が設けられていました。
さらに地下通路の北側には2つ、窓のような開口部が空いています。ここは水生植物を栽培観察するための水槽になっていたそうです。なんとなく水族館にある壁面水槽を想像してしまいます。
こちらが水槽内部の様子です。前面の開口部以外はモルタルで塗り固められていました。
地下通路側の開口部のフチはこのようになっていて、おそらくこの段差部分にガラスがはめ込まれていたのでしょう。段差は目測で1.5cmくらいの厚みがありました。
そして水槽は2つあり、隣り合う壁にはパイプが1本通っていました。このパイプを通して2つの水槽の水温や水質を一定にしていたのでしょう。
地下遺構の地上部分は、構造物のレンガがむき出しになっているので観察しやすいです。
こちらの北側へ伸びる地下通路は、ボイラー室と石炭を貯めておく貯炭庫へ向かう通路です。残念ながらボイラー室は江ノ島植物園として整備する際に防火水槽へと改修してしまったため、現在は見る事ができません。
貯炭庫の方は現存していて内部を見る事ができます。何となく壁面が黒ずんで見えたのは、石炭の粉塵によるものなのでしょう。庫内に立ち入る事ができないので、壁面を触ってみることが出来ないのが残念です。
こちらがちょうど貯炭庫を地上から見たところです。2つ空いている開口部は、ここから石炭を補充するための投入口です。2つ連なったカマボコ型の天井部が、土から露出しているのを観察できます。資料によると貯炭庫の広さは2.44m×2.28mあったそうで、とても大きな貯蔵庫だったことが分かります。
サムエルコッキング苑で当時から今も残存する温室遺構は、今回巡った地下施設と温室の基礎部分などのレンガで作られた構造物だけしか残っていません。これは1923年に起きた関東大震災により、温室の建屋などは倒壊してしまったためです。当時の建物を見る事ができないのは残念ですが、今も残っている遺構は近代の文化遺産としてとても貴重なもので、レンガ造りの温室遺構としては現存するのは唯一ということでした。